浴びる、桜
2013年 03月 29日
染井。
毎年毎年、同じ風景だと知っていながらもやっぱり行ってこの目で見てこないと寂しい。
来年もあるさ、なんて誰にも言えないんだから。
この日はあいにく曇り空。
桜の背景は、絶対に青空じゃないとマズイ。
ソメイヨシノは特に、花びらが白いから。
花見は墓地にかぎる。
普段だあれもいない静寂の空間に、それでもわざわざ電車に乗って桜を見に来た人たちがドッと訪れる。ぞろぞろと小道は混むけれど、酒盛り、食べ物の匂い、カラオケ、大声の談笑・・という花を見るには全く不要なものが一切ないのが素晴らしい。皆、ゆったりと歩きながら花を見上げ、カメラを向け、時々連れに向かって静かにコメントしている。
春、夏、秋、冬・・・いつも歩き続けてきた、一番好きな道。
隣りの慈眼寺の芥川家の墓所が見える。左の、緑が小さくこんもりしているところ。
香りでは負けていない沈丁花。
白いのが好きだ。
大正の頃に埋め立てられてしまった「長池」の跡あたりの古木たち。
長池はかつてこの窪地にあった大きな池で、安政3年の古地図にも記載されている。ここを源流として西ヶ原までは谷戸川、駒込あたりで境川、田端あたりで谷田川、根津からは藍染川、と名前を変えながら不忍池に流れ込む全長5キロあまりの川だったのだ。
両腕を広げても到底とどかないその幹に掌を当てると、何だか仄かな温かさというか、樹の体温というのか・・・そんな熱を感じる。
閑散とした日でも必ず誰かが訪れている高村家の墓所。
高村光雲、高村光太郎、高村智恵子が眠る。
帰るころ、少し陽が差してきた。
白く濁った桜が、ほんのりピンク色に輝きだした。
このあたりはもう、墓地まわりもすべてソメイヨシノの並木でクラクラするくらいだが、それぞれの場所で樹の太さや形、表情が違って面白い。
駒込駅から巣鴨駅までの線路沿いには、かなりのお年寄り。
その足元には可愛いクロッカス。
そして巣鴨から大塚までの「すがも桜並木通り」の提灯は、今年から(?)商店や個人名が書かれていものになった。すこぶるいいことだ。風情を壊さない。
夜桜を見るために照明を設置するなんて無粋だとずっと思っていたが、それはそれでいいものなのかもしれない、と最近ようやく認める気になってきた(笑)。
それほど、日本人は桜が好きなんだ。
差こそあれ、一億総「桜狂い」。
それも、ほんの一週間の。