生き尽くす姿

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背筋をまっすぐにさせられる力。
誠実に生きて行こうと決意させられる力。
それが、この映画にはある。

カンヌ国際映画祭での受賞でも話題になった是枝裕和監督のドキュメンタリー映画「扉の向こう〜ロック歌手・宮本浩次という生き方〜」(2004年)。
エレカシがアルバム「扉」をレコーディングしていく過程を軸に、リーダー宮本さんの生活を絡めながら3ヶ月密着したドキュメンタリーである。
ごくごく最近、私はやっとこのDVDを手に入れた。

エレカシを意識して聴き始めた今年始め頃、ちょうど、メジャーどころのアルバム「ココロに花を」や「明日に向かって走れ」をレンタルして聴き入っていた頃、私はある動画サイトで偶然この映像を見た。それは劇場版(DVD版)と少し違い、ファンの姿も共に追ったテレビ放映版だったけれど、そこに登場する楽曲の、それまで聴いたこともないような突拍子もない詞と、そこに沸き上がる音楽の圧倒的な力に打ちのめされ、すでにその時入手困難になりかかっていたそのアルバム「扉」を即刻見つけ出して入手したのだった。そうしてそれが、入り口だった。

長年のファンにはお馴染みであろうこのドキュメンタリー、もちろん今となっては4年も前のことであるから、エレカシも宮本さんも、そして世の中も大きく変化していることは確かだ。でも、ここに描かれている1人のアーティストのあまりにも真摯な姿は、けしてファンだから感動する、なんてレベルのものではないと強く思う。(・・・と、ファンが言うのは甚だ説得力に欠けるところが困るのだが・・・苦笑)
けして「創られたシーン」ではない本物のドキュメンタリーだけれど、やっぱり効果的に「魅せる」演出の腕もあるだろう・・・そう思う人がいたとしても、そんな眼差しさえも全てはねとばしてしまうほどの物凄さが、この映像にはある。
そう、これは「本当」で「本物」なんだな、と思ったのだ。

言い訳がましいが、ドキュメンタリーに映し出される宮本さんの、一切の妥協を許さない仕事ぶりや苦悩し尽くす姿を見た「から」、彼らの音楽が好きになったのではなく、むしろその逆だった。何がそんなに私を捉えるのか、何故にこんなに引っ張られるのか、と薄々思っていた時だったから、「ああ、そうだったのか、だからだったのか」と念押しされ、答え合わせされたといえば近いだろうか。

このアルバム「扉」は所謂セルフプロデュースの形を取っている。つまり、演奏する人間が自らプロデューサーも兼ねるということだが、これは実に膨大な労力を要する仕事だ。ミュージシャンの音楽感、理想、弱点、その人間の後ろにある全てをも知り尽くした、ミュージシャンの殆ど分身とも言える信頼できる人間がプロデューサーとして一緒に仕事をしてくれるなら、そんなにいいことはないし、それで成功している人はたくさんいる(むしろプロデューサーを置くほうが普通かもしれない)。
セルフプロデュースの場合、レコーディングの時だけのことを考えても、スタジオで演奏し、それをプレイバックして詳細までチェックし、改善してまた演奏し、またチェックし・・・の繰り返しという作業になる。精神力、体力、耳の耐久力・・・すべてが1人にかかってくる。その分時間もかかる。おまけにエレカシの場合は言うまでもなく、曲を創るのも歌詞を創るのも宮本さん自身だ(スタジオに入ってから詞を付けていくというその状況には驚いたけれど)。
そして録音後もミックス後も、最終的なOKを出すのは自分自身。責任も自分1人。
もちろんそういう意味では「100%理想の形」が出来るともいえるのだから、ベストな形だとも思えるが、これは本当に大変なことなのだ。

私はたまたま彼らの音楽に出会った。
宮本さんのみならず、またアーティストに限らずどんな仕事をしている人であっても、たくさんの人が真剣に生きている。そして私も、そうして生きているつもり、だし、そうしていると思っていることが多い。いや、そんなことさえ忘れて、恨みつらみが湧き出ることも少なくない。
そんなダメダメな私には、折りにふれて冷水を浴びせてくれる何かが必要だと本当に思う。
そしてこの小さな映像作品は、私の宝物のひとつになった。
正座して見たくなる作品。
しばらくの間迷っていたけれど、多少無理をして手に入れて良かったと思っている。

「自分の全てを使い尽くしたい。
使い果たして死にたい。」

全然、まったくダメだ。使えていない、これっぽっちも。
まだまだ残っている、何かが。
足りない足りない。
何をこんなに楽に生きているんだろう・・・

ちなみに。
21日までですが横浜・黄金町のシネマ・ジャック&ベティで上映中。
DVDはこちら
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by saskia1217 | 2008-11-19 23:11 | エレファントカシマシ | Comments(0)