千の目、千のナイフ

昨日は夕方から「千の目(まなざし) 蜷川幸雄&近藤良平 対談」を聞きに、与野にある彩の国さいたま芸術劇場に出かけた。
この劇場には、ポジティフオルガンが入ってすぐの頃の「オルガンミニコンサート」の企画と演奏を担当させていただき大変お世話になったし、それ以外の本番でもよく音楽ホールに出演する機会もあり、よく通ったので、なんとなく愛着がある。
与野本町というのは時間的には家からそんなに遠くはない。歩く時間を入れてもこの劇場までは40分くらいだろう。でも埼京線って駅間が長いせいか、何故かとっても遠く感じるんですね。
でも「世界の蜷川」と、あの近藤さんの対談ときいて数週間前に申し込み、ホクホクと出かけていった。

この対談シリーズは、今年1月1日付けでこの劇場の芸術監督に就任された蜷川幸雄氏が毎回ゲストを招いて催すもので、昨日は、氏演出のシェイクスピア作品「間違いの喜劇」上演後、ほぼ1時間の予定で行われた。私は残念ながら劇のほうは見ずに、対談だけを聴いた。

蜷川さんに関して、特に演劇に詳しくない私は、世の中一般の人がもっているイメージとか情報しか持ち合わせていなかった。ダンスカンパニー「コンドルズ」の主宰者、振付家でもある近藤さんに関しては以前からこのブログで書いているが、TVのドキュメンタリー以外では近藤さんの「声」をきいたこともなく、だいたい彼が「しゃべっている」イメージがどうしても浮かばないので、それが見てみたくて応募したのだった(笑)。

平日の午後だというのに、会場である小ホール(360席ほど)はほぼ満員。それも見たところ学生、主婦など色々な世代の人たち。殆どは上記のお芝居を見た後にそのまま流れてきたお客さんらしかったので、蜷川さんのファンが多かったのだろう。が、中には明らかに「近藤さんファン」とお見受けする方々も・・・(観察していると何となくわかるんですね)。

定刻より数分前にステージに登場した蜷川さん。「なんだか会場がし〜んとしてしまったので、出てきてしまいました・・・」
そして、この対談シリーズのタイトルになっている「千の目(まなざし)」について語られた。
「昔、かなり過激な演出をしていた若い頃のある日、映画を見ようと、とある映画館に入った。すると1人の若い男性が『蜷川さん、ぜひお話したいのですが、外に出てくれませんか』と執拗に言ってきた。仕方ないので一緒に外へ出て、喫茶店に入った。するとその男性はテーブルの下でいきなり、ジャックナイフを突きつけてきてこう言った。『蜷川さん、あなたは「希望」を表現していると思いますか』『いいえ、そうは思いません』『そうですか、よかった。もしそうであったら、僕はあなたを本当に刺すつもりでした』・・・そこで、初めて思った。劇を見に来て下さるお客様は皆、「眼差し」とともに「ナイフ」も隠し持っている、それを忘れてはいけない、と」
(詳細は違っているかもしれませんが、大体はこのようなお話でした)

な〜るほど。ステージとお客さんの間には、いつも「切るか、切られるか」のような切迫した命がけの真剣勝負がある。この前ここにも引用した近藤さんの言葉「見に来てくれたお客さんが、明日会社を辞めてしまうような、そんなステージにしたい」にも通じるところがある。

ほどなく近藤さんが登場。Tシャツにオレンジのパーカというラフなスタイルに深めのハンチングをかぶり、リラックスした軽やかな足どりだ。やはり午後のお芝居を見ていらしたそうだが、蜷川さんの希望で、二人は終演後対談までの間に、敢えて会わなかったという。ある程度の偶然性が欲しかったらしい。
二人は世間話のように話し始め、近藤さんのお仕事ぶりの紹介として、コンドルズの昨年のステージのビデオ、それに続いて蜷川さんの作品である映像(ジャニーズの二宮くんと松浦あややが出演)が流された。
ホスト役の蜷川さんは殆どずっとしゃべりっぱなしで、時おり自虐的な事をおっしゃって会場を湧かせていた。結局1時間強、お二人の雑談のような感じで終始。それはそれで楽しかったのだが、本当はもっとお二人の仕事における信念や、実際の方法論や、舞台裏なんかを聴けたら良かったなと思ったのも事実。以下、印象に残ったこと。

お二人の共通点
映画好き、バイク好き、そして

「作品において『即興』はあまりしない」
近藤さん「その才能を多く持っている人はいいんです。でも、自分を含めて、そうでない人の場合、即興が多くを占める作品にしてしまうと、結局はあまりいいものは生まれてこないから」
蜷川さん「才能のある役者には安心して任せられるんです。例えば、大竹しのぶ。でもそういう人は滅多にいません」

そして・・・「人の作品を見ない」
近藤さん「よく他の方のダンス公演にご招待いただくんですけれど、なかなか行けないし、行かないんですよね〜」
蜷川さん「僕は他人の作品は見たくないね。そんなの見るんだったら、映画を見る」
ふ〜ん。いつ頃からだったろう、私も人の演奏会に殆ど行かなくなった。学生の頃は、古楽だろうが現代音楽だろうが、オペラだろうが、ありとあらゆる音楽会に出かけたものだ。その頃「特に自分の専門の楽器の演奏会は聴く気がしない」という同業者の話を聴くたびに、何故なんだろうと不思議で仕方がなかったが、今は自分がそうなってしまっている。別に蜷川氏のように「そんなもの聴きたくない」ということではないのだが、昔に比べてそういうモチベーションが落ちてしまっているんだろう。それともう1つ、ある程度の年齢になると、自分のしている仕事にある程度の型が出来て、それで少し安心してしまうということもある。その「型のようなもの」は、社会的にだんだん要求されてくる教育という仕事の面においても、また演奏家としての自信、確信にも繋がるから、必要なものでもあるが、一歩間違えると「独りよがりの時代遅れ」になる危険もある。時には反省しなくてはいけないな。

もうひとつ、近藤さんのお話で面白かったこと。
移動には殆どいつも車を使うという蜷川さんに対し、近藤さん「僕も電車は使いませんね。本来電車に乗るのは大好きなんです。もちろん満員電車が好きな人はいないと思うけど、ちょうどいい塩梅の人数、例えば10人くらいでも、僕はどうしても一人一人を観察しちゃうんですね(笑)。あんまりにも面白いから、その人の仕草とか、表情とか、雰囲気とか、隅々までじ〜っと見ちゃう訳です。そうすると、結局仕事に行くまでに既に疲れちゃう(会場爆笑)。だから僕はいつもバイクなんです。バイクっていろんなことがちょうどいい。人の会話も半分聴こえそうで聴こえないうちに、自分が通り過ぎる。あ、可愛い女(こ)がいるなあ、と思っても、思ったとたんにふゎ〜っと通り過ぎて、一瞬のいい思い出、みたいになるんですね(笑)。それがまたいい。」

近藤さん、私も電車に乗ると見ちゃうんですよ、人のこと。どこに住んでて、どんな仕事してて、どんな家族がいて、過去どんな人生を送ってきて、今からどこに行くところなんだろう・・・なんてね。だから本を読んでいても全然進まない(笑)。
私ももしかして、バイクに乗り換えたほうがいいのかもしれない・・・・(怖)。
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Commented by Teru at 2006-02-12 08:22 x
こんにちはー。
最近ね、映像でだけど、蜷川さんの作品をいくつか見たんですよ。商業的にもアーティスティックにもうまくいっている演出家ってあまり多くない感じがしますが、蜷川さんってそうなんじゃないかなと思っています。まだよくわからないけど。
そのナイフの話、すごい話ですね。でも、それだけの感情を起こさせる舞台を作っていたと言うことですよね。「過激」「過激じゃない」ってのも基準の一つとしてあり得るけど、その「希望」という基準の方が、実はずっと本質的な感じがします。
「他の舞台を見ない」って話も、僕もなんだか耳が痛いというか、まぁ劇場ライフのルーチンから言って、他の劇場にものを見に行くのはけっこう無理だったりもするんだけど、表現することである意味自分の芸術的欲求が解消されちゃうんだよね、一つは、たぶん。
じつは僕も「千のまなざし」と言う言葉をよく使うんだけど、これはもしかしたら元は蜷川さんなのかもしれない。演出家の岩田達宗さんのモットーでもあり、僕のモットーでもあるんだけど、「客席の千の目を満足させる舞台」というような。
・・・ああ、長くなった。この辺でやめと来ます。
Commented by saskia1217 at 2006-02-12 22:37
teru様
蜷川さんに関しては、私もちゃんと一晩舞台を見た事がないので何ともいえないんですが、これほど評価を受けている方なのでやはり何か凄いものがあるのだろうと思っているので、いつかはちゃんと見に行きたいなあぁ。・・・それと「自分で表現することで芸術的欲求が満たされちゃう」っていうのは確かにそうかも。だから見に(聴きに)いくにしても、やっぱりちょっとジャンルがずれているもののほうが、気分的に楽というか、素直に受け入れられるのかもしれない。
「千のまなざし」という表現は私は今回初めて聞いたのですが、蜷川さんはいつもは「千の目(め)」と呼ぶことが多いとおっしゃってました。心に残る表現ですよね。
あ、長くなってもいいので(笑)、また是非コメントしてくださいね!
by saskia1217 | 2006-02-09 20:47 | コンドルズ | Comments(2)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!


by saskia1217