音だけで勝つ〜エレファントカシマシ・日比谷野外音楽堂コンサート〜
2014年 10月 20日
最初の年は、ファンクラブ先行などではなく、一般発売の、しかも追加発売みたいな感じでチケットを取ったっけ。
ロックのコンサートなんて一度も行ったことがなかったのを、その年の春に初めて渋公のチケットを買って、もうそれはそれはドキドキしながら聴きにいった、その数ヶ月あとの野音だった。
それも一人だったな。
それがここ数年は、野音のチケットはかなりの入手困難になった。ファンクラブ会員でも抽選にはずれる人のほうが多くなった。
それでも毎年、行けなくなった人のチケットを譲っていただいたりして何とか中に入れる幸運に恵まれてきたが、今年、7回目にしてとうとうチケットが入手できなくなった。
けれど、自分の心持ちが、数年前みたいにその事態が「世界が終わるくらいの悲劇」ではなくなっていたので、ああ仕方ない、行けないけどまたいつかコンサート行ければなー、なんて思ってた。
でも、ああそうだ、外聴きってやってみてもいいか、今年は暑い時期でもないし・・・
午後の仕事を終えてから、途中からでも寄ってみようか。
エレカシが毎年休まず行ってきた、25回目の野音。
果たして「外聴き」は素晴らしい時間だった。
開演時間、日比谷公園・野音のまわり。
音楽堂入り口前のアスファルトの道の両側、ステージ裏に当たる、通りに面した噴水のあたりの椅子、ステージ横にあたる茂みの下のスペース・・・
みんな思い思いの場所に、友人たちと、あるいはカップルで、また一人で、陣取る人たちの姿。
グループでレジャーシートを敷き、ビールやおつまみ、お弁当持参で準備万端の人。
ぽつんと立ったままで、一人で煙草をくゆらす人。
開演前はそこそこ賑やかでピクニックみたいな空気だったのが、開演するや否や、みな飲食を止め、シーンと集中している・・・
さすがだな、エレカシファン(笑)。
皆の気持ちと視線と耳が、一心に同じ方向に向かっているのがわかる。
少しでも聞き漏らすまいと、体全体がアンテナみたいになっている。
快晴の青から、だんだんと薄い紺色になってゆく空を見上げ、野音の中の樹々の葉の裏に映るステージの照明をみつめ、その向こうから飛んで来る宮本さんの大きな歌声と微かに聴こえるMCを、石くんのコーラスを、成ちゃんの低音を、トミの爆発音を、蔦谷さんの色合いハーモニーを、ミッキーの色っぽいメロディーラインを・・・
受け取るために。
始まったとき既にもうかなりの人だったが、1時間後くらいにふと気づくと、ぐっと増えていて吃驚。
「外聴き」は自由さがある。
飲み食いしたければ会場内よりは気兼ねなくできるし、セットリストを書きながら、大きく体を動かしながら、ときにはすこーし一緒に歌っちゃったりしてもまあ、許される。
「内」と「外」を仕切る冷たい石垣の壁に向かい、冷たいコンクリートの地面に薄いレジャーシート、その上に新聞紙、その上に座って足をかかえていたが、ごろごろ座ったり、足を投げ出したり、リズムをとったり、その自由さがいい。
野音独特の、古い曲多めな、じつに魅力的なものがどんどん続くセットリストに、隣りにいた友人と笑顔で確かめ合う。
3曲目「浮世の姿」は93年の野音以来ライブでは演奏されなかった曲。
「ひまつぶし人生」「お前の夢を見た(ふられた男)」「太陽ギラギラ」「見果てぬ夢」など、聴けるのが貴重な嬉しい曲が並ぶ。
大好きな「君の面影だけ」も嬉しかった。
けど、イントロで心臓止まりそうになったのは「東京の空」。
八王子で聴いて以来、もういつ聴けるかわからないなーと思っていた。
この日の宮本さんの声は、つやつやしていて、本当に元気そうで、MCのとおり本当に張り切っている気持ちがよく伝わって来た。
この大曲を歌い上げる、弾き切る心意気。
「月の夜」「今宵の月のように」「月夜の散歩」の三つ巴。
「東京の空」と「友達がいるのさ」を、一晩で両方聴けるというこの上ない幸せ。
浮世、東京、月、友達、男・・・
これぞ「野音」、だなあ。
アンコール10曲を含む全32曲、約3時間。
その姿は見えないのに、宮本さんの仕草が目の前にあるようにはっきりとリアルタイムで浮かんで来る。
その演奏には微塵の衰えも疲れもなく、こんなに密度の濃い3時間が過ごせるなんて。
明るいステージではなく、暗い茂みのなか、真っ黒に立ちはだかる石垣にむかって一斉にコブシをあげ、叫ぶ外聴きのみんな。
まばゆい照明と、力に満ちた動きを目にしながら、いまそこで生まれる音を受け取るコンサート。
CDプレーヤーを前に、iPhoneを耳に、ひとり静かに、作り込まれた音源だけを集中して聴く時間。
いろんな「エレカシ」を聴いて来た。
そのどちらでもない、生々しい音を余計なもののない集中のなかで聴くという経験。
ステージを走り回り、お客さんに語りかける宮本さんのパフォーマンスはそれは魅力的だけど、そしてそれは舞台人としてとても大切なことだけど、こうしてただその声と言葉と音だけで、こんなにもグイグイと胸を打ってくる彼ら、エレファントカシマシの、プロとしての凄さ、真のアーティストだということがあらためてわかったのも、外聴きの大きな発見だったかもしれない。
いつもは、最初のアンコールの1曲目にやる「今宵の月のように」を、9曲のアンコール群の真ん中に置き、あたたかい気持ちにさせてくれたあとで、「最後の最後に『男は行く』とかやってくれちゃったりするかなー」なんて言ってたら、ラストの1曲でホントにゴリゴリに歌ってくれた。
♪俺はオマエに負けないが、オマエも俺に負けるなよ♪
音と言葉だけで勝つ。
「負けないエレカシ」が、私はいつも好きだ。