沈黙

高校生の頃は、ヴァン・ダインとランボーと遠藤周作と三浦綾子ばかり読んでた。
遠藤周作では「おバカさん」が一番好きだったけど、「沈黙」も好きだったなあ。
そんなことを思い出しながら、久しぶりに神保町に出向く。

「大いなる沈黙へ〜グランド・シャルトルーズ修道院」
ドイツの映画監督グレーニング氏が、取材申し込みをしてから16年経って初めて撮影が許可されたという、最も戒律の厳しい修道院のうちのひとつ、その内部の修道士の暮らしを撮った映画。
そ、こういうのはやっぱり、岩波ホールだよね。

まだ封切ったばかり、夏休み開始直後ということもあってか、連日満員だとか。
1日3回の上映の、開始時間より数時間前にチケットが売り切れてしまうというので、午後の回を見るのにお昼頃窓口へ。
3時間あまりの時間つぶしの後、ゆっくり珈琲なんか飲んでから、それでも開場の30分前に着くと・・すでに劇場の2つ下の階まで階段に列。
自由席といったって、チケット買った人は必ず座れる、にもかかわらず(苦笑)。
(以下、内容に深くは触れませんが、これから鑑賞される方はご注意ください)


そう大きくもないこじんまりした劇場に満席の人いきれの中、静かに映画は滑り出し、3時間もの間、独特な空気が貫く。
まだ8月まで上映中なので詳しくは書かないけれど、この映画の持つギリギリの耐久力(いろんな意味で)は、いかにもドイツの監督らしいとも感じた。
ヨーロッパで評判になったときいたけど、どっちかといえば日本人の持つ(好む)感覚に近いようにも思った。
その内容、カトリック、キリスト教、という具体的な面を除けば・・・もしかしたら。

キリスト者には自分自身を顧み、振り返り、うらやみ、憧れ、そしてまた自分に返って来る何かだっただろうし、キリスト者でない人には、まず驚き、でもすぐに共感し、うらやみ、憧れ、諦め、そして立ち返る時間になる。
そんな3時間。

何度か繰り返して現れたフレーズ「主よ、あなたは私を誘惑し、私は身を委ねました」が、最初はピンとこなかったのが、3時間観たラストに出たときに「あ〜、そうか、そういうことなのか」って思ったり。
(引用箇所はエレミヤ書20章7節「主よ、あなたがわたしを惑わし、わたしは惑わされてあなたに捕らえられました」〜新共同訳)
「誘惑する」という訳がわかりにくかったのかな。
ドイツ語字幕ではverfuehrenで、文字通り「誘惑する」なんだけど、日本語のその言葉よりもっと広い意味(ニュアンス)があるように感じる。
ラスト近くで膨大に押し寄せる「Benedictus」の文字の波、それとこのフレーズが突然繋がる。
そういえば、邦題「大いなる沈黙へ」も・・・ドイツ語の原題は「Die Grosse Stille」、まさに正しい訳なのだけど・・・。
grossは「偉大なる」「大いなる」と普通に訳せるしそういう意味で使うのだけど、映画を観終わったとき頭のなかに灯ったのは

「この大きな沈黙」

という、もっとそのままの「直訳」。
定冠詞Dieには、dieseにはない無二の、しかも不定冠詞にはない普遍的な強さと、そして「ここにしかない」「ここにこそある」という特定性を。
そして「偉大な」と言ってしまうと先へ行き過ぎるような、特化し過ぎのような、特定の意味を持ってしまうような、そしてそれが却って意味を狭くしてしまうような気がした。
邦題のしっぽについてる「へ」は要らないと思うな〜。
だって、そこ「へ」向かっているわけではなかったから。向かっているのではなく包まれ、支配され、飛び込み、楽しんで・・・いるから。

物理的に「静寂に対する敏感さと忍耐力」を世界中一番に持っていると思われる日本人だけど、鑑賞中、ずうっっっと団扇や扇子でパタパタあおぎ続ける人、飴の紙をいつまでもガサガサ触っている人、「何時に終わるのかしら、まだかしら」と何度も連れの人にささやき続ける人、イビキをかく人、トイレに立つ人(このへんはまあ仕方ないけど・・笑)・・・普通の映画なら笑って許せることが、この映画ではやっぱりちょっと難しい。
特にね、ラスト、最後の最後、まだ終わってないのに画面が暗くなったからって、半数くらいの人がガサガサ席を立ち始めてしまって、とっても残念だった。

リラックスして観ようと思っても、ぎゅうっと観てしまう、というより吸い込まれてしまう3時間。
でも、それだけの時間が絶対に必要だったことが、16年待ち、6ヶ月もの間修道士たちと生活を共にし、さらに5年かけて作り上げた監督の気持ちが、わかったような気がした。

昔、ドイツの雪深い修道院でシスターたちと激しく(笑)ソリ遊びをした思い出が、まったく同じ風景として鮮烈に蘇ったシーン。
そこだけちょっと、ノスタルジックな涙。
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by saskia1217 | 2014-07-24 02:02 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(7)

Commented by 馬酔木 at 2014-07-27 00:20 x
(映画未見のため、コメント冒頭しか拝読してません。)
ぜひとも行きたい映画なのですが、公式HPにも連日満員とあって、何時に行けば確実にチケットを取れるのか、迷っています。岩波ホールに直接電話した方が早いでしょうか。
無事見遂げられたら、コメント拝読しますね。
Commented by 馬酔木 at 2014-07-27 10:59 x
連投すみません。twitterで「寝てしまう」らしい、というのを見て、心の準備のため、拝読しました。ふーむ、いろいろな意味で「忍耐力」が必要なのですね。ドイツ語の解読、勉強になりました。やっぱり見に行って、「沈黙」を感じてこようと思います。
Commented by saskia1217 at 2014-07-28 18:11
馬酔木さま
コメントありがとうございます。数日間バタバタしてしまってお返事がすっかり遅くなりました。ごめんなさい! 
私が行ったときはまだ封切りから間もなくだったので、混雑がひどかったと思います。おそらく段々減って来るのでは?夏休みということもあるのか、午前の回が一番混むようで、3回目(夜)の回は大抵、開場時間ちょっと前くらいに行けば普通にチケット買えるとか。オススメはおそらく、3回目(夜)でしょうかね。
日中特になのか、ご年配の方が殆どかな?カトリック関係の若い人がいっぱい来るかと思っていたのですが・・・
「忍耐」というより、動かないものや静けさを楽しめるか否か、ということでしょうか。現代人、特に日本人は我慢できずにイライラし出す人が多いのではないでしょうか?元々はそういうものを誰しも内に持っている民族だと思っているのですが。
「寝てしまう」というつぶやきも見ますが、ちょっとあり得ないです、勿体ない!(笑)そういう方はたぶん違うものを期待されて来たのでしょうね。 
いい環境で、楽しまれますように!
Commented by 馬酔木 at 2014-08-06 23:21 x
観て来ました! 午後の回狙いで、ご体験を参照してお昼前にチケットを取って乗り込みました。「勿体ない」とのお言葉に、全ての場面を見逃すまい、と心構えして…。(始まると、あちこちで明らかな寝息の音(笑))
何を意味しているのか、よくわからない場面もありましたが、後でパンフレットを読んで納得したり。室内の光の射し方や構図が、17世紀オランダ絵画を彷彿とさせるなー、と思ったり。聖書の章句の引用と画面とのつながりは、理解が及びませんでした。「大いなる沈黙へ」の「へ」は、なぜつけたのかな、と私も思います。
ただ、「厳格」さを実感するには、今日はあまりにも酷暑で、冬の寒さを想像するのが難しかったです。また、日本の禅宗の修行に比べると、自分の裁量で過ごせる時間が自由に見え、むしろ楽しそうに思えてしまいました。永平寺なんかも、映画化されたらおもしろいんじゃないかな~。
Commented by 馬酔木 at 2014-08-06 23:22 x
(続き)それにしても、岩波ホールはネット予約をどうして導入しないんでしょうか。チケット購入にも入場にも並ばされ、イマドキ時代遅れな気がします。まあ、あまりにもシニアだらけだったので、恩恵から外れる人も出てしまうかもしれませんが。
終わりのタイトルロールになった途端、席を立つ人がいたのは御同様でした。あろうことか、通路をよろめいてきたオバサンが、私の足を思いっっっきり踏んづけたんですよ! 思わず、声にならない声で叫んでしまいました(まだ痛くて、湿布してます)。
とはいえ、ヨーロッパの伝統文化の一端に浸る、良質な時間を過ごせました。ああ、またヨーロッパに行きたい…。
Commented by saskia1217 at 2014-08-08 22:13
馬酔木さま
それはそれは・・・。いいことも残念なことも色々でしたね〜。
でも無事ご覧になれてよかったです。
禅宗とキリスト教では(そんなに単純なコトバでは説明できないことだと思いますが)修行の「厳しさ」の意味が違うのかなとも思います。
修道院の生活は「修行」でもありますが、神様の愛を受けるという意味で自然や他者(とはいえこのような隠生修道院では共同生活者である仲間のみになりますが)との接触があるのだと思います。(でも週に4時間だけの会話時間ですからね・・・)
キリストが他者との触れ合いを大事にされたということもあるでしょうし。
あとは純粋に使命(仕事)である学問を深めるための交わりということもあるでしょう。
自由時間の過ごし方も全くの個人個人の自由ではなく、それなりの規範があるようです。
そのあたりは、修道会によって本当に色々ですよね。

私はヨーロッパでいくつかの修道院にお邪魔し数日間生活したことがありますが(もちろん在世修道会のみ)、美味しいお食事やワイン、シスターたちとのソリ遊びなど、生きている喜びを謳歌し感謝するという精神をほんの少しですが垣間みてきました。

Commented by saskia1217 at 2014-08-08 22:13
(つづき)
私はヨーロッパでいくつかの修道院にお邪魔し数日間生活したことがありますが(もちろん在世修道会のみ)、美味しいお食事やワイン、シスターたちとのソリ遊びなど、生きている喜びを謳歌し感謝するという精神をほんの少しですが垣間みてきました。

永平寺もNHKのドキュメントなどで内部がずいぶん報じられましたし、あそこで修行してきたお坊さんのお話も(うちは実家が曹洞宗なので)よく聞く事ができますが、厳しいとはいえ最近はずいぶん開かれた感じになった気がします。
いつか行ってみるのが夢です。

岩波ホール、たしかにもっと便利になるといいですね。せっかく良い映画やっていて、しかも若い人も結構多いのに!