どんな悲しみからも〜エレファントカシマシ宮本浩次 in 日比谷野音〜

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♪これも浮世と生きるなら 生きて行くのなら
笑顔たやさず行くもいい♪

♪悲しみの果ては
素晴らしい日々を送っていこうぜ♪

♪俺の姿を忘れるな
ニタリニタリの策士ども♪

♪オマエがいつかくれた優しさが今でも宝物
でっかく生きようぜ!
誓った遠いあの空忘れないぜ そうさ
今も同じ星を見ている♪

・・・・・

『どうか俺を野音で少しだけ歌わせてくれ』という無言の叫びを放ったエレカシの宮本さん。
あれからまだたった4日しか経っていないなんて、とても信じられなかった。
そしてその4日間、仕事や用事をこなしながらも心の底に何かがひっかかっているような、悶々とした時間を過ごした。
宮本さんが「歌う」と言っている、ならばその片鱗でも聴きに行こう、会場の外では全ては聞き取れないかもしれないけど、でも今度はいつ生の声が聴けるかわからないのだ、今どのくらい元気なのかもわかるだろう、行かなかったらきっと後悔する・・・
そう思いながらも何故だかまだどこかが燻ったままだった前日の夜、突然の1本の電話で、私の掌に日曜野音のチケットが舞い降りた。
もちろん中に入ろうなんてとっくに諦めていたから、嬉しいというよりむしろ呆然だったけれど、感謝して出かけようと思った。

半べそをかいてる東京の空の下、虎ノ門から日比谷公園まで歩く。公園に入ると野音前の石垣沿いにはビッシリと人の波。そして茂みの奥、木立の下、あらゆる場所に人の姿が17時を待っている。さすがにいつものワクワクした高揚はあまり感じられず、みなどこか緊張した面持ちで言葉も少ない。テレビ局や主催者側のカメラが数台あちこちに構えられているのも、その空気をどこか引き締めているようだった。
開場してしばらくして中に入ると、すでに後方には立ち見の人がズラッと陣取り、物販にはいつものように長蛇の列。そんな光景はいつもどおりのエレカシ野音だった。柔らかい表情で粛々と淡々と準備をすすめる見慣れたローディーさんたちを見ると、あ〜さすがだなと思うと同時にこちらの気持ちもほぐれてゆく。
客席には、もうすぐ公開の「のぼうの城」関係者や、ファンを公言する著名な俳優さん、共演してきたミュージシャンたちの顔も見えた。皆、この野音を楽しみにしていたのだろうな。

席に辿り着いてから、ステージにキーボードやドラム、ギターなど、メンバーたちのいつもの楽器が並んでいるのに気づく。事前のコメントや報道から「宮本さんが病気の経緯などを話して少し歌う」というのはたぶん少し話をしてあとはアコギで1曲、多くても2曲くらいかと想像していたので、少し驚く。
プラグドの演奏もやるのか?!

かすかに小雨が霞むなか、5時少しすぎに宮本さんが姿を現す。
その颯爽とした歩みはいつものコンサートの生き生きしたオープニングそのものだったが、ギッシリと席を埋めたお客さんからは、いつもの声援ではなく、感嘆とため息が混じった1つのどよめきのようなものがきこえ、そのあとはずっと、長く長く、静かな拍手が続いた。
宮本さんがギターを持ちセンターマイク前の椅子に座ってからも、その拍手の波は止まなかった。誰も叫ばない。ただ皆無言でステージを見つめたまま手を叩きつづけていた。
宮本さんはギターを構えながらそれがおさまるのを待っているようだったが、「ありがとう、ほんとにありがとう」と静かに声にしたところでやっと拍手がやんだ。

「夢のちまた」「悲しみの果て」、そして情深く歌い上げる「約束」とアコギでの歌が続く。
最初は少しハスキーかなと思ったけれど、高音が伸びていてとてもいい声。ダイナミックスが大きくなったり高音域になったりすると、こちら側がかえって臆病になってゾワッとしてしまうのだけれど、そんな妙な心配をよそに宮本さんはとても気持ち良さそうに見えた。

「友達がきてくれました・・・心配してくれて・・・」と、キーボードの蔦谷さんとギターのヒラマさんが登場し「リッスントゥーザミュージック」。いつもアコギで始まりバンドで盛り上げてゆくこの曲、今日は蔦谷さんの静かなハーモニーと、ドラム不在のリズム係としてのヒラマさんのギターに支えられて、かえって声が通って聞こえて清々しかった。
「野音なので・・」と「月の夜」。この希有なメロディーラインとハーモニーを持つ難曲を、見事な高音でもって聞き惚れさせてくれた。
「うつらうつら」「見果てぬ夢」と渋き昔の曲たちが、間をあけずにどんどん歌われてゆく。後からきいたらもともと8曲の予定だったのが12曲になったというから、おそらくこのあたりが宮本さんが「勝手に付け足しちゃった」曲だったのかもしれないなあ。

そして何気なく始まった、初めて聴くイントロ。
ああ、新曲だ。
歌詞から、それが「涙を流す男」だとわかる。
意外とポップで明るい感じ。リズムも印象的。31日のリリースが楽しみだ。

「みんなに捧げます」と「花男」。
「俺たちの明日」はアコギversもいいんだよなあ。いつもなら照明が全開になって会場中が拳の森になるのだけど、今日は殆どの人が佇んだまま聴く。途中で「なあ、がんばろうぜ!」といういつものセリフが入ったけれど、今の宮本さんからその言葉を言われるのはちょっぴり身を切られる思いがした。
「これ練習しててさ、いや〜、ほんと〜に・・・いい曲だよなあって、あらためて思っちゃって」(拍手)

そして再び蔦谷さんとミッキーとともに「笑顔の未来へ」。

♪愛しい人俺は結構都合良く出来ているんだ
どんな悲しみからもすぐに立ち上がるのさ
あなたが望むなら 俺はいつでも大見栄きって
かっこ良くいたいと思っているよ my little girl♪

予想したとおり、今日のステージの宮本さんは、元気そうで、いつもとおりの話し方で・・・そのユーモアたっぷりの話に会場が笑い声に包まれることもしばしば。
だけどそこにあった宮本さん自身の緊張感と、心配の塊となっているお客さんを少しでも和らげようとしているような心遣いは、冒頭のひとこと「みんなを吃驚させて、がっかりさせちゃって、そしてたくさん心配もしてもらっちゃって・・・ごめんなさい」からも十分過ぎるくらい想像できた。
「なんか・・・寒くない?」
そして雨が降ってくれば、ギターを手にしたままステージ前方ギリギリまで出てきて「あ、雨、大丈夫かなあ?みんな大丈夫?」
固唾を飲んで見守っている感の3000人のファンを慰めてくれるように、こうも言ってた。
「でもね、そんな、そんなに深刻じゃないんだ・・・こうやってほら、今ここに居てさ、こうしてみんなに会えたわけだし」
そうだね、やっぱり近くにいる人じゃないから、具合はどうなんだろう、元気にしているのだろうか・・・と思っているファンには、姿を見せてくれるだけでもう十分ありがたい。
「報告会」のような色もあったものだから、曲間で言葉に詰まると「俺、もっとセリフを考えてくりゃよかったな・・・」なんてつぶやいたり。
もう十分伝わったよ。

最後の1曲、12曲目には「昔からの友達もきてくれました」とメンバー全員が登場。先の2人とともに、見慣れた「エレファントカシマシs」の姿となって、「のぼうの城」の主題歌「ズレてる方がいい」。オープニングからずっと暗いステージに宮本さんのスポットだけだった照明が、ここで一気に客席までもを照らす明るいものに切り替わる。
「まだ、爆音がこわいので・・」と時折左耳を手で押さえながら、でもあの身体を二つに折って一心に歌いあげる宮本さんの力は、間違いなく何にも負けないと思わせる熱唱だった。
「でも(マラソンしたりタバコをやめたりしたことで)なんかこう・・・声が・・・良くなったとい うか」・・確かに今日の声はとても透き通って張りがあったように思えたし。というか、なんだか声の印象がちょっと違う気がしたんだ。

そんな「静かで熱いライブ」となった今日、「フォークコンサートみたいでいいか(笑)」と、病気の発症から入院、手術、術後のことも結構たくさん話してくれた。
「7月からタバコもやめていたけど・・・浮き雲男がタバコやめたってねえ(笑)・・それはきっとその頃からすでに疲れがたまって身体が弱っていたんだろうなあ」と。
もともと時々耳鳴りがあったのが4ヶ月前くらいから結構増えてて、でも今回のは自分でも吃驚するくらい突然来て、耳に水が入ったかな〜と楽観視してたら酷くなってきて、夜中に枕に頭を打ち付けても(実演)治らなくて、休日の救急にかけこんで一時的におさまったこと(ちょうどニューシングルのジャケット撮影のフィッティングの日だったそう)。
でもすぐまた悪くなって、大きな病院にいき、すぐに入院手術となったこと。その時点では、補聴器をつけたとしても元通りには聞こえないだろうというレベルだったそうで、ふだん元気な自分は急に「手術」と聞いて結構驚いたこと。
手術は知らない間に終わっていたけど、術前に「喉に管を通すから一時的に味覚(苦み)が無くなったり、声が出なくなったりするかもしれないけれど・・命を最優先にするので」と言われ、覚悟を決めて「お願いします!」と返事をしたこと。
弱っているとどうしても「病気に酔って」しまって、他のところがあちこち痛かったり悪いような気がしてきたりして、先生に「あり得ません!」と一刀両断にされたこと(会場笑)。
そして、繰り返し繰り返し「お医者さんてほんとにすごい」「看護師さんたちの働きぶりに感動した」と感慨深く話し、10日間の入院期間、結果的に少し休むことができたこと、「壁を見ながら自分の人生を考える」時間もあったことが自分ではよかったと思っている、と。

1時間があっという間に過ぎた。
「そんなわけで、しばらくライブは休まざるを得ないことになっちゃうんだけど・・・また必ず戻ってきますんで」
「今日はみんな本当に来てくれてありがとう。俺もここに来られてよかった。歌えてよかった。」
そして最後の最後に、いつもの一言。
「また会おう!」
この言葉が、これほど重い響きを持つ時が来るなんて・・・。

今までもう何年も、エレカシのライブがあって、チケットを買って、聴きに行って、そこに宮本さんとメンバーとスタッフがいて、たっぷりいい音楽が聴けて、楽しくて嬉しくて泣けて泣けて・・・というそのことが、本当にごくごく当たり前になっていた。もちろん毎回毎回、そのことをありがたい、得難い幸せだと感謝していたし、これはけして「当たり前」のことじゃない、これが普通、当たり前と思っちゃったらダメだ、と意識していたつもりだったのに。
今度は一体いつ、こうやってコンサートで会えるのか、その声が聴けるのか・・・現実としてそう考えなくてはならないのは、正直本当に辛い。

♪俺にはなくしたものなど無かった♪
という言葉が飛び込んできた「涙を流す男」の一節が、いつまでもいつまでも心の奥に残ったこの日。
宮本さんが、そしてお客さんが、捧げた、捧げられた一夜。
その両方ともが救われるような言葉を残して、宮本さんはステージから姿を消した。
「歌うと元気そうでしょ?(笑)・・・・歌うと元気になるんだよ」

暫くのさようならは、きっと必要な時間。
また絶対に会えるんだから。
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Commented by スノウ at 2012-10-15 09:30 x
お疲れさまでした。
夢のようだったなぁとまだ余韻に浸っています。
登場したときや終演後の、なかなか鳴り止まないあたたかい拍手が忘れられません。お互い捧げて、捧げられて。あったかかった。
Commented by saskia1217 at 2012-10-15 18:06
スノウさま
ありがとうございました。
余韻を味わうというよりも、昨日受け取った映像や音すべてが自分を日比谷へ引き戻してしまうという不可抗力っぽいです(苦笑)。
でも、もしかしたら「そのため」に催されたのかもしれない。宮本さんは自分と自分の音楽の存在を、いつもの何倍も強く私たちに焼き付けてくれたんだと思います。これからどのくらい続くかわからない不在の時間の栄養とするために。
Commented by 履歴書の封筒 at 2013-01-12 13:41 x
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
by saskia1217 | 2012-10-15 08:12 | エレファントカシマシ | Comments(3)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!


by saskia1217