思い出

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今日の朝知った、オランダのチェンバリスト、レオンハルトの逝去。
83歳。
昨年すでに「引退」宣言をしていたとはいえ、直接、間接的にこの音楽家が影響を与えた人数の天文学的数字を思うにつけ、もう人前で弾くとか弾かないとか、存在しているかしていないか、そんなことは全く関係なく、彼はずっと「そこ」にいて、そしてずっと「そこ」にいるんだろうな、と思う。

もう20年くらい前のことだが、私はレオンハルト門下だった師匠そしてクラスの友人たちと、彼のアムステルダムの自宅を訪ねたことがあった。
市内中央の一番歴史ある、一番堂々としているその運河に面した通りのお住まいは、オランダの都市部における古い住居に典型的な上に細長い造りだったが、地階から最上階まで、階段の踊り場からキッチンに至るまで楽器で溢れていた。
楽器やマントルピースの上にさりげなく置かれた中国の陶磁器や、壁にかかった絵からは何ともいえない「本物感」が伝わってきて。

愛用の素晴らしい楽器のある広いお部屋に案内されガッチガチで立ちすくんでた私たちに、じつににこやかに「さあ、どうぞ、弾いて下さい」なんて・・・なんて言われても。
最初は誰ひとり、一歩踏み出す人はいなかったな(苦笑)。

その演奏や外見的な印象から「紳士的」なイメージが強い方だったと思うけれど、お話してみるととてもお茶目で、ユーモアに満ちていて、いたずらっぽくて。
皆で食事している間も、スラッと冗談を連発されたり・・まあ、それはかなりレベルの高い「冗談」ではあったのだけれど(笑)。
そのとき目の前のテーブルの上にあった角切りゴーダチーズの山盛りのお皿を、何故か強烈に覚えている・・・。

コンサートには何回か足を運んだ。
日本で聴いたのは帰国後の1回だけだったが、そのときの演奏は正直私の心にまったく響かなかった。ステージの上の彼も、こころなしかあまり弾きたくないようなニュアンスに、私には見えた。
それっきり日本公演には一度も行かなかったけれど、昔ニュルンベルクで聴いたコンサートは素晴らしくて今でも時々思い出すことがある。
晩年、特に来日公演ではJ.S.バッハやルイ・クープランなどのプログラムが多かったけれど、イタリアやスペインの音楽で彼が醸し出すエネルギーと放出力のほうが、私には訴えるものが多かった。
フランス、ノルマンディーの街ディエップの1739年製の歴史あるオルガンを使って開かれていた講習会に参加したとき、昼間の受講生コンサートで私が弾いたマルシャンの曲を、ゲストだった彼が同じ日の夜のコンサートで同じオルガンで弾いたときの衝撃も忘れられない思い出。

ああ、どれもこれも、もうずいぶん遠くになってしまったなあ。
中学、高校時代に私の憧れだった大指揮者たちや偉大なピアニスト達も、もう殆ど旅立ってしまった。
パイオニアは去り、そして「次」が来る。
次の次には、また次が来る。
とは言えども、それもごくごく「ちっぽけな時間」に過ぎないのだけれど。

だからもはやそれは「さようなら」でもあり得ない。
自分もひっくるめて、すべては瞬きのうちだから。
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by saskia1217 | 2012-01-18 23:40 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(1)
Commented by 馬酔木 at 2012-01-19 21:23 x
昨夜、新聞で訃報に接し、ああ、誰かと語り合いたいと思ったものの、周囲に可能な人が見つからず…ここに来て、ああやっぱり触れてくださった、とほっとしました。CDなどで演奏を耳にするだけの私は、引退宣言をなさっていたことすら存じませんでした。じかにお会いになったことがおありだったんですね。それはさぞかし、ある種のオーラのようなものが感じられたことでしょう。
私も今なら、演奏会に足を運ぶことができるのに…。確かに、最近、お名前を存じ上げている方々が、実は大変お年を召していらしたり、幽明境を異にすることが多いですね。世代交代はどの世界にもつきものですが…やはり惜しまれることです。


今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!


by saskia1217

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