色と音の旅

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国芳か、広重か?
ヒルズか、ミッドタウンか?

やっぱりね、どう考えても広重のほうがずっと好きなので、今日は広重「東海道五拾三次展」へ。
サントリー美術館はミッドタウンに移ってから初めてだったかも。
昔、バッハ展だのモーツァルト展だのやってたころはよく行ったんだけどな。
っていうか、ミッドタウンに入ったのがそもそも今日が初めてだった(笑)。

六本木ヒルズで開催中の国芳の没後150周年展もテレビで紹介したりして大人気らしい。
あの自由奔放な面白すぎる、そして怖くもある作品、嫌いじゃないのだけど、どうも私は人物が中心となってる絵がどっちかというと苦手らしい。
だからなのかなあ、人の顔がド〜ンってプリントされたTシャツは絶対着られない。

で、まだ午前中でオシャレなショップもガランとしてるなか、美術館に辿り着くともう結構な人出。
年配の方、それも女性の3〜4人連れが圧倒的に多い。
(ついでに言わせてもらえば、それが喧噪のもとになってることは残念ながら確かだった・・・orz。作品の前にず〜っと陣取って、大声で世間話するのはやめましょ。
それと横に掲示してある解説文をぜんぶ音読するのもやめましょう、ぜひ)

広重の出世作の天保4年(1833年)の「保永堂版」そして嘉永2年(1849年)頃の「隷書東海道」を、江戸から京都までの順で3〜4階にぎっしり展示してある贅沢な展覧会。
前者は栃木の那珂川町馬頭広重美術館蔵、後者はサントリー美術館蔵。
広重の作品を持っている美術館は国内にもいっぱいあるけど、いつか色々見に行けたらいいなあ。

洋画の油絵みたいに大きくないし、とにかく作品保護のために照明がかなり暗めなので、ガラスの展示ケースの前に人が2人立つともう何にも見えなくなる。特に最初のほうの混雑は酷く、激戦をくぐり抜けようとするも虚しく玉砕、トップの「日本橋」あたりは最後にもう一度見に戻った。そしたら空いてた(笑)。

目が慣れてくると、その色の美しさにまず驚く。構図や刷りの緻密さは当たり前だけど、色の鮮やかさがとにかくすごい。特に保永堂版は見事。
ヒロシゲ・ブルーと呼ばれる青はもちろんのこと、私には緑がとても印象に残った。

ひとつひとつの作品に思ったことはたくさんあってとても書ききれないが、見ているうちに「なんだろう、このちょっと楽しくて懐かしくてコミカルで、時々ホロッとするこの感じ・・・」とじわじわ思ってきて。
そうだ。
ピーター・ブリューゲルだ。
庶民の日常を描いた画家の代表格。一枚の画面中に大勢の人が描かれ、それぞれの動きや思いを細かに読み取るのが面白くてしょうがないこの感じ。
ちょっと似てる。
時代は違うけど。
少し謎解きっぽい知的なところは、版画ってこともあってちょっとだけデューラーも入ってる?
・・・としたら、国芳はまるでイエロニムス・ボスじゃないか!
不思議ちゃんなところとか、オドロオドロしいところとか、なんじゃこれ〜!的な発想とか。
全然時代は違うけど(笑)。
イメージ、イメージ。

江戸からどんどん西へ行くにしたがって富士山が見え始めてだんだん大きくなり、十四「原」ではありえないインパクトで最大に達し、それがまた少しずつ小さくなってゆく。
大名行列をひれふしてやりすごす旅人の横で可愛い犬がじゃれてたり、各地の名物や旅籠の風習、言い伝え、川の場面では様々な「渡し」の方法など、風俗を見るという面白さはもちろん大きなウエイトを占める。
なかでも、犬が主人の代わりにお伊勢参りするってのには吃驚。(四十四「四日市」)事情で行けない主人の代参で、首にお賽銭を付け、旅人たちや宿場の人がリレー式で面倒をみながら無事お伊勢まで行って、しかも無事に主人のところまで帰ってくる、んだそうだ。本当かぁ??・・・だとしたらちょっとすごい。

人々の様子もまるで漫画みたいに生き生きした表情をしているのが面白くて、見ながらついニヤニヤしてしまう。
船が岸につくときの「あ〜あ、やっと着いたぜ」の大あくびとか、旅籠の客引き女のすごい形相や、喧嘩する男達の顔、遊郭の門の前にいる男達の嬉しそうな表情、歩き疲れて宿についてホッと一息、たらいで足を洗って安らいだ顔・・・。
漫画みたいといえば、最後に展示されていた「袋絵」(保永堂版が全作品まとめて売られた時の「表紙」みたいなもの)にのってる大勢の人物は昭和初期くらいの漫画といっても信じちゃうくらいだ。「のらくろ」とか、「サザエさん」の一番初期の頃とか。

ひとつひとつゆっくりと見てゆくうちに、どの作品からも「音」がしてくるのに気がついた。
雑踏の人々のどよめき、馬の嗎、子供たちの声、物売りの声、立て札にとまった鳥の鳴き声。
急に降ってきた驟雨が草を打つ音、濁流になった川、浜辺を渡る海風とそれが松の枝にあたる音。
そして、音だけじゃなく「スピード」も。
川がどれだけ速く流れているか(「宇津之山」)、馬がどのくらい速く駆けているか(「宮 熱田神事」)。
それから「温度」。
茶屋の店先のやかんから吹き上げる湯気の熱さ(「袋井 出茶屋ノ圖」)、菅笠を飛ばされたその風の冷たさ(「四日市 三重川」)、朝霧のなか出立するその馬上の凍えるような冷え(「三島 朝霧」)。

すごいね。
55枚、どの作品も見所があったけれど、特に好きだったのは以下の数枚。
大きな鳥居が画面中央に描かれてる構図が面白い「藤沢 遊行寺」。
山肌を青、緑、その間の何色にも塗り分けて絶壁を描いた「箱根 湖水圖」。
霧の厚みをシルエットの濃淡であらわした「三島 朝霧」。
そして有名な、きっとみんなが好きな(笑)雪景色の「蒲原 夜之雪」。これは「天ぼかし」の保永堂版のほうがずっと好き。
灰色と黒のお尻のぷっくりした馬たちと草原、海と松のマッチ感が何とも不思議な「池鯉鮒 首夏馬市」。
3〜4回見に戻ったくらい、山の緑が素敵だった「水口」。

・・のだけれど。
一番感動したのは、もしかしたら「天童広重」と呼ばれる肉筆画だったかもしれない。
天童藩からの依頼で制作された一連のものから、お軸がいくつか出品されていた。
東海道の作品の途中、4階から3階へ降りてきた階段のところに、踊り場の休憩的な感じでそれはあった。
一息いれる気持ちで何げなく見ていたら、どうも見覚えのある風景。
それは、「東都瀧の川春景」「瀧の川秋景」の二幅と、「王子音無川」「東都王子不動之瀧」「王子滝之川」の三幅だった。
「名所江戸百景」でもおなじみのこの風景。このあたりはよく散歩するところで好きな場所だから、思いがけずここで出会えてすごく嬉しかった。自分がよく知っている、親しみのある場所が作品として出てくると、作者との距離がグンと近くなってドキドキするよね。
「天童広重」の存在なんて知らなかったから余計に。
ここは、広重に大きな影響を与えたと言われる丸山派との比較というコーナーで、応挙の滝の絵が隣りにあったのだが・・・技術的には彼から学んだのだろうが、私にはそれほどその関係は響かなかった。
これらは殆ど水墨画のようなモノトーンに、例えば紅葉寺(金剛寺)の紅葉だけが薄く紅色になっているくらいで、ひっそりとした佇まいの作品なのだが、そのインパクトは強烈なものがあった。
特に素晴らしかったのが「王子不動之瀧」。
王子稲荷あたりの鬱蒼とした樹々が中央上部にふんわりと描かれ、その下に何ともいえない微妙な余白があって、その下からまっすぐ下に伸び落ちる滝。そしてそれが画面一番下に向かって再びぼかされてゆく柔らかさ。
たったそれだけの絵なのだけれど、バランスというか空気感というか・・・全てがピシッと決まっていて、凛として、でもふんわりしていて。
う〜ん、圧巻。
あれが自分の家にかかってたら一日中眺めてるだろうなあ・・・なんてね。
あの滝がまだあったらなあ・・・どんな景色になっていただろうか、と歩くたびにいつも思う。
弁天様の洞窟ももう昔の形はなくなってしまったし。
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そんなわけでまるまる3時間ほど堪能した後、地下のイートインで美味しい親子丼を食べ、せっかくのお散歩日和なので、檜坂から近くの大好きな赤坂氷川神社まで歩いた。
赤坂の神社仏閣を訪ねてなが〜い散歩をしたのは、震災の前日3月10日だったことを思い出しながら。
そしてそこから溜池山王に出て帰路へ。
いろんな「旅」が出来た一日に感謝。
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Commented by 馬酔木 at 2012-01-11 23:06 x
そっそんなおいしい展覧会をやっているなんて、知りませんでした。しかも15日まで!ああ~行けない…。
ずいぶん昔、N谷園のお茶づけパックに、東海道五十三次のカードが付いていて、その角に印刷されていた応募券でコンプリート・セットが当たる、というのがほしくて、集めていたことがあります。大人になってから、そのキャンペーンが打ち切られるのを知り、その間際に応募して、まんまとゲットしました。もうその頃は、応募数も少なくなっていたのだろう、と推測しますが…。
Commented by saskia1217 at 2012-01-12 00:02
ああ、お茶漬けの、ありましたね。新聞社か何かでも昔「名所江戸百景」シリーズがコンプリートするプレゼントもありましたね。私はその頃まったく興味が無かったので何のアクションもしませんでしたが・・。
広重関係は人気があるので、きっとまたどこかのコレクションが東京に来てくれる気がします。私も今回はたまたまサントリーホールの楽屋の廊下でポスターを見て知ったので、これからはもっとアンテナ張っていないと!
by saskia1217 | 2012-01-11 02:19 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(2)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!


by saskia1217