♪毎日がラスト・ゲーム♪〜エレファントカシマシ 日比谷野音コンサート〜

風速く流れる雲の間から射るような強い日差しと、体じゅうにまとわりつく息がつまるような湿気。
9月17日、土曜日の午後。
物販販売開始時刻あたりに、霞ヶ関駅から日比谷公園へぶらぶらと入ってゆく。
蝉しぐれ。
野音入り口あたりはすでに多くの人でいっぱい。
暑い、とにかく暑い。
昨年のあの「熱中症よ、いらっしゃい」的な、あの二の舞はさすがにないと思ったのに。

お友達と昨年と同じ木陰に座っていると、緑の向こうからサウンドチェック、リハ、と聞こえてくる。
特徴あるベースのリズムが流れて来たとたん、背中がビリビリしたよ。

「歴史」

エレカシの曲をまだ3曲くらいしか知らなかった頃、動画サイトで見たそのライブ映像で決定的に引き寄せられた、この名曲。ライブではもちろんまだ一度も聴いた事がなかった。
今日、これを聴かせてくれるんだ!
イントロを何回も繰り返しながら、本当にわずかなテンポの微調整をしている。その理由は本番開幕時に解明されたのだが・・。
虫除けスプレーを何度もかけ直しながら、「孤独な旅人」「無事なる男」「勉強オレ」と進むリハを耳で追いかける。どれも宮本さんは殆ど歌わないまま確認程度。おかげで、外で聴いてるお客さんには「この上なく贅沢すぎるカラオケ」が鳴り続ける。
「太陽の季節」のイントロでプラスされるキーボードが新鮮で面白い。
ギター1本の「月夜の散歩」でグッとダイナミックレンジが低くなる。基本宮本さん一人だけの弾き語りをリハでやるのも珍しい。その理由もあとでわかった。

屋台の呼び込みも一層賑やかに、そして隣りの「オクトーバーフェスト」のバンド演奏もかすか〜に響く中、やっと開場。
1年に1度、入り口の坂を上がりきり目の前に擂り鉢状の空間がひらけるこの瞬間・・・いろんな思い出が蘇る。

10分ほど押したところでステージ照明が付き、満員のお客さんがいっせいに立ち上がる。
歓声。
宮本さん以外のメンバー3人が登場し、滑り出すように「歴史」イントロが始まる。
何度か繰り返したところで、宮本さんがおもむろに歩いて登場。
一段と大きな歓声。
生で聴いた「歴史」は「扉」の頃の声よりもずっと落ち着いて、振り絞るというよりも念を押しながら丁寧に歌い進められていたように思った。

大好きな「孤独な旅人」、これはちょうど3年前、初めてこの野音にエレカシを聴きにきた時に既に知っていた数少ない曲だった。あのときは一般発売で普通にチケットとっていたなあ、なんて思いながら。この曲、その3年前の野音以来ライブではやっていなかったと後で知った。
「悲しみの果て」を「ちょっと古い曲」と紹介するようになったなんて・・・ね。
「ふわふわ」「勉強オレ」「無事なる男」と、滅多に生で聴けない大好きな曲が続く。「ふわふわ」が聴きたくていつもLifeツァーのDVDを引っ張りだしてしまうんだ。あのイントロのワクワク感はハンパない。そして精一杯毒づく声の力強さも、この曲を発表した時とこの日の45歳の宮本さんと、寸分の差もない。その「ブレなさ」に脱帽。
「勉強オレ」はイントロから音源のたぶん1.5倍くらい速く(笑)、カラオケで歌うにはかなりの勇気がいる早口言葉みたいな歌詞の多さをさすがにサラッと歌っていて爽快(本人なんだから当たり前、失礼です)。
そして「無事なる男」は自分の中では「日曜日」「いつものとおり」「浮雲男」などと同じラインにある「同種の」好きな曲。
軒並みのライブ未経験の曲が続いて嬉しかった。

「太陽の季節」ここからキーボード蔦谷さんとギター昼海さんが、そっと加わる。
「昔の曲なんですが・・・いいこと言ってるんで・・・歌詞がね」とMC。
蔦谷さんが当初非常に驚いたというこのハーモニー進行を再確認しつつ、久しぶりにじっくり歌のパートを追いかけながら、いやいやメロディーラインだってかなりヘンだぞこりゃ、とその絶妙な曲がり具合を満喫。
「うれしけりゃとんでゆけよ」も初めて生で聴いた。特徴あるギターのイントロがいいね。音源のあの印象的な若々しい声のイメージがまったく消えてない。不思議なハツラツ色があるんだよなあ、この曲。

「月夜の散歩」、見たことない面白い顔のギターが出て来たなあと思っていたら「ドブロギター」っていう楽器だった。宮本さんのMC、わりとボソボソって感じなのであんまりよく聞こえなかったこともあって、家に帰ってくるまでずっと「ドクロ」ギターだと信じてた私(笑)。
「ふ〜ん、あの模様がドクロなのか〜、なるほど〜」って。遠目で見ててガンバみたいなc字孔がついててなんかお茶目だったんだもの。
正式名はリゾネーターギター。DOBRO社製が有名なのでドブロギターとも呼ばれてる。どうやらあのおっきな丸いものが、音を大きくするための反響板らしい。スライド(つまりエレカシ用語で言うところのスライドブリージャー・・・)で使われることが多いのは、フレット押さえなくてもおっきな音が出るからだそうで。エレキが普及してない頃、フルバンドに対抗できるよう大きな音を目指した結果できた楽器。
いろいろあるんだな〜、ギターって。全然わかんないや。
「この曲録音した時これを使ったんで、その時のエンジニアの方から今日はこの野音のためにお借りしてきました・・・普通のギターとあんまり変わんない気もするんだけど・・・ん〜、でも違うのかなやっぱり・・・いい音がします。」
楽器のことや、ちょっとプロフェッショナルな音や声や録音の話なんかを宮本さん自身の口から聞けるのは、じつはとっても嬉しいんですよね。知らない世界のことなので、すごく興味深い。
あんまり無い事なんだけれど。

その「月夜の散歩」、虫の音が分厚く響いている中を、そう強く押してくるわけでもない声とギターが流れてゆく。ギターはなるほど、ちょっとカントリー寄りの乾いた音がする。言葉が浮き立つ。
例えようも無く好きなサビのコード進行が、オリジナル通りに戻っていて嬉しかった!・・Bの次はゼッタイにBonA(つまり246)でなくては!(笑)
じゃないと、なんか身体が痒くなっちゃうんだ。
気がつくと、ステージには宮本さん1人しか居なかった。ただ1本だけ伸びたピンスポの長い柱のなかに虫が飛んでいた。月はそこからは見えなかったけれど、速く流れる雲と星が見えた。じっとりとした空気の中にときおり風がサァ〜ッと吹き抜ける。
「散歩は若い頃はよくしたんですけどね、最近は本当にしなくなっちゃって。電車とかは乗るんですけど東京だとなかなか。だから地方に行った時にはよく散歩してますよ。・・・でも何でなんだろう、若い頃は見るもの聞くもの何でも嬉しくて、歳とってそういうのが無くなってきて・・・邪気が出てきたんでしょうかね?」なんて感じのMC。
邪気・・・歳をとると誰だって、感受性の前に小さなブレーキがかかることが多くなるんだろうけれど、それは仕方ないことかも。計算とか世間とかかかわることが多すぎてくる、そして鈍くもなる。たぶんみんな、40過ぎくらいにそれに気づくよね。
だけど、宮本さんの創る歌、歌う声を聴く時、どっちかといえば誰よりもその闇への陥り方が少なく済んでいる素晴らしさのほうを感じるけどな。
感性は才能のうちだけど、感受性は努力次第、考え方次第ってところもあるような気がする。

弾き語りが続く。
「散歩しながら辛かったり・・・そんな頃の曲です」みたいなMCだったような・・・「サラリサラサラリ」。これは歌詞がすごく好き。歩きながらときどき頭の中に鳴る曲。
メンバーが戻って「ラスト・ゲーム」。ここで荷風が歌われて「歴史」の鴎外とそろい踏み、ちょっと嬉しかった。
「ライブってのはデートみたいなもんでさ・・」とごにょごにょMCがあって、まさかの「愛と夢」から「Tonight」。♪ビルの光で踊ろう♪ってとこがいい。私は好きなアルバムだけど、なんでみんな嫌いなのかなあ?(苦笑)
「いつまでも暑いですね・・でも秋なので」と「秋ーさらば遠い夢よー」。このアルバム「life」はちょうど10年前、NYで録音されたという話。9.11の1週間後のNY。
間奏の口笛前半を歌ってくれたのも綺麗だった。
その流れで、同じ時に創られた「ハローNew York!」。ホントにもう、こんなオカシな曲ない!「life」DVDで初めて聴いたときこれは完全なるインプロ曲だと思ってたのだが、その後レコーディングされてると知って吃驚だったもの。歌詞を冷静に聴くとね、ほんとにスゴイものがあって。この人しか書けない、歌えない曲。でもその中にとっても大事な本音が語られていて。日本人の自分を気づかされたりしちゃうのもスゴイ。
タバコが日本で700円になったら、それをまた歌ってくれるかなあ・・・(笑)。

このあたりから段々、多くの人にお馴染みのナンバーが続く。
「風に吹かれて」はギターイントロの力強いバージョン。
この日やってくれると思っていなかった「翳りゆく部屋」、この曲はいつ聴いても何度聴いても足りることがない。真実に深いことに触れたときに涙なんて出やしない、ということが毎回証明されてるような、私にとってはとても大事な曲。だから、この曲で泣けたことなんて一度もない。
この日も、拳を握ってただただ立ち尽くすだけだった。

「明日への記憶」に続いて、久しぶりで嬉しかった「新しい季節へキミと」は速めのテンポで爽やか。イントロのアレンジが面白かった。
そして、センターマイクが低くされイスが用意され、宮本さんがひく〜く座って間髪入れずに始まったのが「男は行く」。そのビジュアルには昔からのファンは嬉しかったでしょうね。トミのドラムが凄くて度肝を抜かれる。ものすごかったな。宮本さんを通り越して突き抜けて来たもん。
終わると全員ハケ。
こ、これで本プロを締めるのか!

しばらくしてアンコールに出てきた宮本さんはマイクをとりながら「何なんだろう、この会場いっぱいの優しさは!」みたいなことをつぶやく。それは観客側からも感じてた。ファンとアーティストの生温い馴れ合いじゃなくて、外側ふんわり中身歯ごたえじっくり、みたいな感情の柱が、あの会場の空へ向かってモクモク伸びてるような。(ヘンな例え・・笑)
「武蔵野」はやっぱり日比谷では必ずやってくれるんですね。いつもと違って全員一斉に終わるエンディング。
すぐに「生命賛歌」。大きな歓声。ハンドマイクでド迫力。ここでしたね「オレはニッポンが好きだ〜っ!」って途中で叫んでいたのは。
次の「幸せよこの指にとまれ」との心地よいギャップを楽しんで、そのハッピー感のまま、もう1つの日比谷定番曲「友達がいるのさ」になだれ込む。
このあたりから宮本さんはちょっとヘロヘロ気味に見えたけれど。

再び、ダブルアンコールに登場。そういえば石くんがアンコールでグッズTに着替えてたのは珍しかったな。
「笑顔の未来へ」はちょっと色々辛そうで間奏のギターも無かったけど、バンド全体は揺るぐことなく演奏はすすむ。
「ガストロンジャー」「ファイティングマン」とお客さんが盛り上がる流れ。「男も女もファイティングマンだ〜!」といつもの励ましのコール。

「だけどみんな元気だなあ・・熱いな、みんな、すごいぜ!」って観客は言われたけど、こっち側の熱もちゃんと向こうに伝わってるって、やっぱり嬉しい。
「一生懸命聴いてくれて、ありがとう!」も単純に嬉しかった。
そして昨日は聞かなかったけど「みやもとかっこいいぞ〜」という女子はホント止めて欲しいけど、「好きですっ!」と渾身の声で叫んでた男子にはちょっと感動した(笑)。

ただ立って聴いているこっちでさえ、さすがにあの夜になっても落ちない湿気のせいで身体のなかに熱が溜まってる感じだったから、ライティングの下、ステージで動いて演奏してる人たちはもっと体力奪われてたでしょうね。
まさかもうやらないと思っていたら、トリプルアンコール。
もう十分だよ、たくさん聴かせてもらったから・・と思いながら「今宵の月のように」を聴く。始める前にため息までついてた宮本さん、渾身のラスト。

約2時間強。全27曲。
日比谷の野音を聴くのは4回目だったけれど、終わってみて反芻した印象は、とっても大人っぽいコンサートだったということ、かな。
いいとか悪いじゃなくて「メンバー、そして宮本さん、歳をとったのですね」という一言。そんなに長い間彼らを知っていたわけではない私が言うのは適切じゃないかもしれないけど、たしかにそんな実感があった。
つまり。
今、この時を生きてる、そして今この時を歌ってる。
思い出も後悔も、未来への恐怖もぜんぶひっくるめて。
否定したい事実、現実、自分を含めた全てを受け入れながら、それでも止めない。
走り続ける。
厳しさも哀しみも、呑気な楽しさも開き直りも。
そして、悟りも。

その歳にならないとわからないことって、やっぱりあるんだなあと思う。
辛いけど、だから生きて行くんだよね。

♪そう努力をしなよ今以上
いわば毎日がラスト・ゲーム
(中略)
声がまだ出るうちに♪

いつ声が出なくなるか、その恐怖と戦いながら日々歌っている、という宮本さんの言葉をどこかのインタビューで読んだことがある。
理屈ではわかっていても、それをいざ実感するとなると急に怖くなるもの。
誰しも同じなんだけど、日に日に怖くなるなかでそれでもまわりをちょっと見てみると、ああそうだ、自分は間違ってない、ただ逆らう事もなく受け入れて前を向こう、という気持ちになれる。
いつもその先頭にいてくれるのが、エレカシと宮本さん。

エレカシにも、それを聴くみんなにも、そして私にも、それが素敵な「人生の午後」であってほしい。

「歴史」(決定的一撃を受けた映像)


初期のステージでの「ふわふわ」(客席の状況必見!)

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Commented by スノウ at 2011-09-19 23:32 x
お疲れさまでした。
あれは『生命賛歌』の時だったんですね。ありがとうございます。
エレカシの「今」を精魂込めて伝えてくれた、素晴らしいライブだったと思います。(って言葉にしちゃうと伝え切れてない気がして、自分の表現の下手くそさに嫌気がさしてしまいます・・・)
2008年の歴史の動画、実は初めて見ました。自分でも驚き。これ、とてもいいですね。
Commented by saskia1217 at 2011-09-19 23:52
「友達がいるのさ」の時だったかもしれない、って今でもあやふやです(苦笑)。まったくちゃんと覚えてない・・・。

この「歴史」、歌も演奏はもとより、視線の鋭さや一瞬の表情の捉え方が素晴らしいと思うんです。
映像アングルが素晴らしいから、気迫が伝わってくる。
何度も見てしまいます。
by saskia1217 | 2011-09-18 23:40 | エレファントカシマシ | Comments(2)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!
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