備忘録〜名取川と舟弁慶〜

日々起きたこととか、思ったことなんて、たぶんいちいち書き付ける必要はないのだろう。
正直なところ、そんなことがそれほど重要だとはあまり思っていない。
「備忘録」なんて言葉は、きっともっと本当に大事なこと、忘れたら他人に迷惑がかかるようなことに使うものだな。
ブログ、なんて「公式プライベート」だって、だから本当はものすごくどうでもいいものだと、実は思っている。
だから書きたくない時は書かない。
で、今日はちょっと書く(笑)。
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24日、日曜の午後、国立能楽堂で櫻間右陣さんの会を鑑賞。
観世、宝生、矢来には行ったことあったのだが、ここは初めて。
6月のセルリアンの能楽堂オペラでご一緒させていただいた時は、リハはもちろん本番も、その舞台姿をちゃんと拝見できる瞬間はなく、ほんの一瞬の美しい動きや見事なお衣装をチラッと、という具合だったのが残念だったのだが、今回は本当に堪能。
能楽堂自体のもつ雰囲気も、そこに集まるお客さんたちの空気も満喫。

まず最初に、野村万作さんによる狂言「名取川」。
最初の一声が発せられた時は、正直、声そのもののインパクトはそれほど来ず、どちらかというと耳をすまして集中する方向だったのだが、そんな感覚はものの3分で吹っ飛び、言い回しやトーンの多様さや、緩急、間の長短、そして視覚的にも身体のしなやかさや表情の移り変わりがとても楽しく、ずっと釘付けになっていた。
相変わらず他愛もない話を、あそこまで「本気で可笑しく」思わず声を出して笑ってしまうほどにまで引き上げてゆく狂言という世界は本当に計り知れない。

休憩を挟んで、お能「舟弁慶」。
お能ばかりは多少予習しないと・・と思って、平家物語とか何とか、とにかく全く疎い私はネットで少々情報を得ていた。
前シテは静御前として美しい着物と面で別れの舞を舞い、後半は猛り狂う川で義経の舟を襲う平知盛の亡霊、という、全く違う人物を同じ人が演じるという、能ならではの面白さ。
正面中ほどのお席から拝見していたが、揚幕から人物(特にシテ)が出てくる時のあの何ともいえないドキドキは本当にたまらないし、また遠くからでもその面や手先の角度が紡ぎだす細かい表情がよく見えて、この日は特に橋懸かりでの演技に独特のゾクゾクを感じていた。
あと、揚幕を下から水平にくるくると上げて、鏡の間にいるシテの声だけを聴かせたりする方法も面白かったな。
そしてもちろん、どのお衣装も美しかったけれど、知盛の袴がとても印象に残った。紺地?に金でインパクトあって、明るい舞台に映えてダイナミックで。
長刀もお能ならではの設定らしいけど、画としてのバランスがとてもかっこよくて素敵。

この日の義経は、セルリアンの時にアクテオンの犬を立派に演じていた阪本くんという男の子。
義経がわざわざ子方に設定されているのは、前シテの静御前/後シテの平知盛、そして弁慶という、大人による複数の重要な役を際立たせるためとか、義経と静の別れの場面で、そういう「情」の世界を必要以上に生々しく見せない工夫だとか、色々いわれている。
セリフそのものは多くなくても、ずっと舞台に出ずっぱりで、重そうな立派な衣装をつけ、瞬きもせず長いこと座っていたり、知盛の亡霊に刀を抜いて応戦したり、となかなか大変な大役。
大変落ち着いて見事に舞台を勤め上げていて感心しました。
そしてこの日の弁慶は、お見かけした外見も体格も「まさに弁慶」という感じだったし、子方義経とのかけあいに愛情も感じられてよかった。
なるほど、弁慶〜義経の関係性も、義経が視覚的に若い(幼い)子方だと何か独特の感覚、師従関係に柔らかさやより大きな信頼性が盛り込めるのかも。

そしてなんと行っても、間狂言の船頭さんが素晴らしかった。
狂言方の黄色い足袋が、何人もの能楽師の白い足袋に混じって動いているのも印象的で、また当たり前のことだけれど、能楽師さんたちと掛け合うセリフの言い回しや声のトーンなどが微妙に差があったのがとても面白かった。
亡霊によって川が荒れ舟が木の葉のように揺れる様を、あの小さな枠組みの作り物の舟と空間で表してしまう力。切迫した場面なのに、あの波と格闘する演技はどこか滑稽で笑いも誘えば、また同時にその危機感も併せ持つ・・・。

囃子方にもずっと注目していたが、セルリアンでご一緒させていただいた笛方の松田さんもご出演で、まさにこの日は大活躍の笛、たくさん聴かせていただけて嬉しかった。
私の席はちょうど太鼓方から直線真っ正面だったのだが、その両手の角度のなんと美しかったことか。
それにね、本当の「お調べ」を聴きましたよ。
いいねえ、「お調べ」。
あれが鳴った後には、ゼッタイに他の音に鳴ってほしくない(苦笑)。
演奏直前に舞台上で紐を締められてゆく太鼓の様子や、囃子方や地謡の方たちの扇子の使い方やタイミング、様々な後見の仕事など、一挙手一投足に注目していて忙しかった(笑)。
おかげで、見終わったら結構クタクタになっちゃった(爆)。

他にも細かいところで色々発見はあって面白かったんだけど、すぐ目の前の列の年配のオジサン達のポマードが強烈ににおいすぎていて頭が痛くなっちゃったこととか、真後ろのカップルの若い男がどっぷりしなだれかかってる彼女に(笑)いちいち筋書きやキャラクターの説明をし続けてたのがちょっと残念ちゃあ残念だった。
気にしていたら勿体ないいい舞台だったから、なるべく集中しようと努力していたのだけど。
でも、頭をこっくりこっくりっていうお客さんも結構居たり、終演後の拍手もしたりしなかったりと、いろんなお客さんがいるんだな〜・・・という経験もいい思い出に。

お能も狂言も好きだけど、やっぱりセットで観るのがいい。
また近いうちに観に行こうっと。

終演後まだ明るいなかを、友人と代々木〜新宿と歩く。
暑すぎない気持ちのよい天気で、思わずサザンテラスのベルギービールのお店で、とりあえず一杯。
春〜秋のビールは外にかぎる。
風渡るテラスで、それが日常茶飯事だったドイツを懐かしく回想しながら、空の下でビール。
こういう場面ではいつも
♪五月のビールを飲みに行こう♪
っていうブルーハーツの歌を思い出すんだ。
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あれ?
一杯、じゃなかったっけ?
笑。

呑んでから食事に向かう途中、サザンテラスのど真ん中で、芸大で教えた卒業生たちにバッタリ。
まさにその「懐かしい街」私の第二の故郷ヴュルツブルクに留学中のオルガニストと、やはりカンタータクラブで活躍していたバリトン、そのお友達数人。
嬉しくて思わず握手(笑)。

いい舞台と、いい天気と、いい友達と、いいビール。
生きてる価値は、まだまだあるさ。
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by saskia1217 | 2011-07-27 23:37 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(0)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!
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