さようなら

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「コンサート情報」でもお知らせしたとおり、2006年10月のオープン当初から毎日かかさず開かれてきた「ららぽーと豊洲」のオルガンコンサートが終わることになった。
終了自体が正式に決まったのは本当につい最近のことで、私たちオルガニストもそのことをつい最近になって知ったのだが、そんな中、このオルガンにお別れをする「弾き納め」のために急遽、今日のショップ閉店後に私たちはららぽーとに集まった。
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この130歳のオルガンは、もともとイギリスの教会にあったものが解体されたままアムステルダムに眠っていたものを、ららぽーとオープンに伴ってここに入ることが決まり、東京まで持ってきて命を吹き返したという楽器。
思えば私がこのコンサートで弾き始めたのは2007年だったから、なんだかんだと結局4年近くずっとこいつと付き合ってきたことになる。
ただでさえ湿気や埃に弱いパイプオルガン、冷暖房がガンガンにかかり、常に埃が舞い上がっている空間に置かれてそれはそれは過酷な環境だったと思う。もちろん、メンテしてくれた方たちも尋常でない困難ばかりだった。
その日、現場に行ってみないとどんなコンディションなのかわからないのがパイプオルガン。
私たちもかなり頻繁に、使えないマニュアル、使えないストップに悩まされ、その都度何とか切り抜けながらも、そこに居合わせたお客さんにどうにかして楽しんでいただくことだけを思って弾き続けてきた。
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オルガンがある場所も希有なら、コンサートの状況も未曾有で(苦笑)、大抵はかなりの喧噪の中で演奏することを要求された。ふつうのコンサートなら絶対にありえない状況だから、私を含めて皆おそらく慣れるまでは大変だったと思うし、あそこでは弾けないという人がいても全く当然だと思う。
オープンな企画だから、お客さんだって大声で話しながら聴いていることも多い。小さいお子さんもたくさん走り回っている。
特に土日祭日は、静かな曲は絶対に弾けない。どんなにいい曲でも、どんなに弾きたい曲でも、あそこで弾けない曲はたくさんあった。
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でも、結局はいつも、そこにはお客さんがいた。
1階から3階までビッシリと立ち止まった人混みにMCのボリュームを最大にしなければならない週末の日もあれば、1曲目を弾き終わってMCをしようと後ろを向いてマイクを持ったら誰ひとりそこには居なかった金曜の夜もあった。
それでもいつも、オルガンを鳴らし、MCをし、姿は見えなくてもその音を耳にしている人がいることを思った。
台風でぐしゃぐしゃになりながら到着して弾いた日も、お客さんがそこにいて聴いてくれた。
雪の日も、灼熱の日も、クリスマスもお正月もこどもの日もバレンタインデーも、その日に何が聴こえてきたらその日らしいかな〜と、プログラムを考えるのが楽しかった。
桜が咲いたというニュースのあった日は春の曲を弾き、すぐ横のガラスの向こうに海がきれいな夏の日は海の曲を弾いた。悲しい戦争の知らせをきいた日はバッハのコラールを弾いたし、エレカシのライブで打ちのめされて感動冷めやらず一晩眠れなかった翌日はエレカシの曲を弾いた。
バッハもブクステフーデもクープランも、ユーミンもジェーン・バーキンも弾いた。
そして、お客さんはいつも喜んでくれた。
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MCの間ずっとニコニコとうなずいてくださる方と目が合って力づけられたり、弾き終わってお辞儀をする時、涙を流して拍手してくださる方を見て胸が詰まったりした。
外国からいらした観光客の一団が1階から盛大に拍手をくださったりもした。
赤ちゃんから車いすのお年寄りまで・・・普段の演奏会場で弾いているだけでは到底お会いできない人たちに、オルガンの音を届けることができた。
とりわけ子供たちは印象深い。
知っている曲だと一緒に歌ってくれた子供たち、楽器のしくみを一生懸命質問してくれた小学生、「大きくなったらオルガンを弾きたい」と行ってくれた幼稚園くらいの子。
そして私なんかよりはるかにオルガンに詳しい「オルガンマニア」の方たち。
音楽以外のところで知り合った友人が、気軽に足を運んでくれたことも多かった。

そしてこのブログを見て下さって、わざわざ足を運んでくださった方も少なくなかった。
終演後に声をかけてくださった方も、直接お話できなかった方も、またその後ほかのコンサートにいらしてくださった方も、その全てが尊い出会いとなった。
このオルガンの前で出会えた数えきれない多くの方との時間、まさに「縁」が、私たちオルガニストの中にも、そしてお客さんの中にも、何かしらの灯火として残り、また力となって作用してゆくことを信じたい。

あらゆる人に疑問や好奇心を抱かせてやまないこの楽器の持つ魅力、そして全ての人ひとりひとりの歴史の中にある「その曲」の思い出やエピソード、それ以上に「その時に鳴っている音と音楽」の持つ力。
それをいつも感じさせられた。

この突然のお別れに、今日は短い時間で何を弾こうかと迷った。
2曲弾いた。
このオルガンがロンドンにあった時代にコンサートでも弾かれた記録がある、シューマンの「トロイメライ」。
そして何度も弾いてきた、大好きな大好きな「翳りゆく部屋」を最後に鳴らした。

このオルガンを聴いてくださった全ての方へ。
どうもありがとうございました。

そして、この後コペンハーゲンの音楽学校に設置される予定のこのオルガンに。
今までどうもありがとう。
これからも生き続けて、たくさんの人をいい音で包んであげてね。
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Commented by スノウ at 2011-04-22 10:39 x
急な決定だったのですね。
読んでいて胸が詰まりました。
もうあそこで演奏を聴くことができないのか…
少なからず、私にとっても思い出深い場所でした。
最後の翳りゆく部屋、聴きたかったです。
麻美さんもあのパイプオルガンも、お疲れ様でした。
Commented by saskia1217 at 2011-04-22 19:26
スノウさま
コメントありがとうございます。
ここにも何度もいらして下さいましたね。
その度に大好きな曲を胸を張って弾くことができて嬉しかったです。あの時のスノウさまと、いただいた言葉は私にも忘れられない宝物です。
ありがとうございました!
でも是非また、月島は行きたいです(笑)。
Commented by mjfh0916 at 2011-04-26 21:41 x
とてもとても残念です。あまりうかがえなかったけど、あの空間もオルガンもとても好きでした。翳りゆく部屋、結局聞けずじまいで心残りだなあ。いつかまたぜひぜひぜひお聞かせ下さい。そんな日が来るといいな。
Commented by saskia1217 at 2011-04-26 23:53
mjfh0916さま
コメントいつもありがとうございます。
何度も聴きにきてくださって、今まで本当にありがとうございました。
私も感想を伺ったりするのがとても楽しみでした。
思い出がある場所ですね。
「翳りゆく部屋」は大好きなので、きっといつかまたどこかで弾くことがあると思います。
いつか聴いてくださいね!
またお目にかかりましょう。
Commented by 大熊小隊長 at 2013-07-30 17:38 x
ふとららぽーとのオルガンを思い出し検索したら辿り着きました。
しばらく行かない間にオルガンなくなってしまったのですね。残念です。
多分貴女だったと思います。かなり前のことですが公演前の練習を通路から眺めていて少しお話をさせていただきました。
バッハの曲がどうだとか、両サイドについているボタンみたいのは何?とか、カールリヒターが云々など。
なかなかパイプオルガンは身近にないので、とても新鮮でした。
トッカータとフーガニ短調を途中まで弾いていただいたことが何よりも嬉しかったです。(僕だけのためにに弾いていただいたので)
これからもご活躍下さい。
Commented by saskia1217 at 2013-08-01 18:33
コメントありがとうございます。
オルガンが無くなってからだいぶ経ちますが、たくさんの皆さんに親しく聴いていただけてとてもよかったと思っています。
トッカータとフーガはたぶん私では無かったと思いますが・・いずれにしても楽しんでいただくことができて嬉しく思います。
またどこかでオルガンと親しまれる機会があるといいですね。
Commented by まつ at 2015-12-23 14:25 x
亀コメント失礼します。
豊洲は通勤経路のため、ちょくちょくららぽーとに寄ることがありました。

あのバイプオルガンはその音の響きもさることながら、
オルガン自体の数奇な運命を知ってその歴史に想いを馳せたりしました。

今はもう日本には無いのですね。
一度でもあの音に触れる事が出来て良かったです。

また、この記事の文章がお上手なので、少しウルっときてしまいました。
ひとつの楽器に命を吹き込む演奏者の方は凄いなと改めて感じました。
Commented by saskia1217 at 2015-12-25 20:20
まつさま
わざわざコメントを頂戴いたしまして、どうもありがとうございました。
このオルガンと、あの場所で過ごした時間は今でも時折思いだす、とても素敵な大事なときでした。
演奏にはけして向いているとはいえない状況だからこそ経験できるたくさんの素晴らしいことがありました。
聴いて下さった方の思い出のなかに生きていることが、私たちにとっても一番嬉しいことでもあります。
お越しいただいたこと、感謝申し上げます。
いつかまたどこかで、ぜひオルガンの音を楽しんでくださることをお祈りしております。
by saskia1217 | 2011-04-22 02:40 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(8)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!
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