鮮やかな思い出

どうやらそこは、九州の、古い歴史のあるカトリックの修道院らしかった。
村といってもいいくらいの小さな街の入り口はまるで門のようになっていて、そこをくぐって、白っぽく乾いた道を歩いてゆくとすぐ左側に、その修道院はあった。最初はそれが教会やら修道院やらだとは気づかず、右手に見える山々と、その下で流れているらしい川の音を聞きながら、のんびり歩いていた。

すると子供たちが歌う聖歌が聴こえてきた。グレゴリオ聖歌でもなく、もちろんいわゆる賛美歌でもなく、私が聞いたことのないカトリックの子供用の聖歌らしい。それがあまりにもいい曲だったので、歌声のするほうへ歩いていってみた。
教会は大部分が木造の古いもので、土丸出しの土間になった、農家の戸間口のような入り口は、木造のアーチ状の天井に覆われている。リュックを背負ったまま入って行くと、その先は聖堂になっていて、ロウソクの光だけで薄暗いが、花が飾られた祭壇や木造のイエス像が見える。子供たちはその中で、数列になって歌っていた。廊下で繋がっている隣りの建物は、やはり幼稚園らしい。
しばらく聞いているうちに子供たちは解散となり、女の先生が声をかけてくれた。

「あまりいい曲だったので、聴かせていただこうと思ってお邪魔しました。」
曲名を知りたい旨伝えると、それはやはり最近できたカトリックの子供用聖歌だった。私はぜひ楽譜が欲しいとお願いしてみた。それに、ガイドブックにも出ている歴史あるこの教会のことも、もっと知りたかったし、他の建物も見てみたい。すると先生は、ちょうど修道士の一人が上の階の書斎にいるはずだから、そこへいっていろいろ話を聞くといいですよ、と教えてくれた。

彼女に案内されて、少しミシミシいう木の階段を後をついて昇っていくと、図書室や応接室と並んで、ひとつの小さな部屋があった。部屋に入ると、そこには30代半ばくらいだろうか、黒い修道服のブラザーが机に向かって何か書いていた。幼稚園の先生は聖歌の楽譜の話をして取り次いでくれた。

2階のその部屋は、道路に向かった壁面に比較的大きな窓がついていて、曇ってはいるが白く明るい空がよく見え、道と川を隔てた山々を見渡すことができた。その修道士は、今はそんなに忙しい時間ではないからといって、聖歌の楽譜だけでなく、私の質問に答えて、この修道院の歴史や、この地方とキリスト教との関わりなどを静かな声でいろいろと話してくれた。それ以外の音は何一つ聞こえてこない、実に静謐な時間が流れていった。椅子から立って、ガラス窓ごしに見える山を眺めると、緑の斜面には既にいくつか黄色や紅に色づいた木が混じっていて、とても綺麗だった。
「やはり広葉樹があると綺麗だし、なぜだかホッとしますね」
「このへんは珍しく針葉樹でなくて広葉樹が多いんですよ」と彼は言った。
「なんだかヨーロッパみたいですね。山の形は丸いけれど」と、私は笑った。

飴色をした壁の掛け時計が、午後2時を打った。
「ミサが始まりますので、下に降りていきましょう」
そういわれて、もと来た階段とは違う、もっと奥の階段を降りた。再び薄暗く、ひやっとした空気になった。きっと近所の人たちなんだろう、普段着の、40人くらいの人が集まってきていた。やっぱりこの辺の人たちは昔から代々カトリックなのね、と思いつつ、その日常性にたまらなくホッとさせられた。

ミサが始まった。
始まってしばらくして、さっきの部屋に聖歌の楽譜を忘れてきたことに気がつき、最後列にいたことをいいことにそっとその場を抜け出し、再び階段をさがした。
ところがこの修道院、とてつもなく広く、そしてどこもかしこも薄暗い。木造だがところどころ石の柱で支えられているその様相は、どこかヨーロッパの修道院を思わせた。大きな聖堂以外にもこのフロアには、壁を隔てず、あるいは大きな柱だけに区切られて、あちらこちらに小さな聖堂や小さなマリア像などがあり、それぞれにロウソクが灯っていて、そこにも時々数人の修道士が黙って頭を垂れ祈りを捧げていた。そしてその入り口には、多分今の時間だけなのだろう、ロープがゆるやかに張られ、「2時からミサの時間、静粛に」と書いてあった。

少し大きな廊下に出ると、その先に大勢の人が集まっているのが見えたが、そこはいささかざわざわしていた。何かと思ったら、観光客用の通路だ。つまり彼らは、ミサの時間中はそこから中には来られないらしい。振り返ると、今来た元の角にも同じようなロープに札が掛っている。
聖堂にはもう戻れない。仕方ない。外に出るしかないようだ。

さっきと違うアーチをくぐって外に出ると、白い埃の道に出た。視界は明るくなったが、何かを置き忘れてきたような、欲しかった気持ちのよいものが急に手のひらからこぼれてしまったような、とても残念な気分になった。

・・・・・・・・・・・・と、今朝目が覚めて思ったのだった。
目が覚めた時に、訳もわからずに何だか気分がいい時がある。ルンルンに嬉しい時がある。とても静かな気持ちのいいときがある。それは絶対、何か「いい」夢を見たときなのだが、ずっとそれを覚えている時もあれば、その瞬間に見事に解体してしまうときもある。また、しばらく覚えていたのにお昼頃になってすっかり忘れてしまうときもある。それに、その理由が思い当たるのもけっこう可笑しい。
そんなわけで昨夜の夢は、実に美しく、癒されもし、且つ思慮をも問われるような、そう多くない「素敵な夢」のひとつだったな〜。今まで生きてきて、覚えている限りではこれが4つめ。あとの3つも素晴らしかったが、それはまた、いつかお話しましょ。
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Commented by あひるん at 2005-10-12 03:28 x
美しい夢ですね。なんだか、私の大好きな世界です…。一緒にその世界に浸ってしまいました…。
by saskia1217 | 2005-10-11 23:40 | 感じろ、考えろ、思え! | Comments(1)

今日もまた日が昇る・・出かけてゆこう!
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